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AKTシグナル経路


AKTの概観

AKT(PKBまたはRac)は、PI3K/AKT/mTORシグナル経路(PAM経路)のコアノードに位置しているセリン/トレオニンキナーゼであり、細胞の転写、翻訳、増殖、成長とアポトーシスなどの基本的な機能を制御する。AKTにはAkt1、Akt2とAkt3の三つのサブタイプがある。AKTのPHドメイン(プレクストリン相同ドメイン)は特異的にPIP2とPIP3に結合し、AKTが細胞膜に局在させる。その後、キナーゼドメインはリン酸化の為、ATPのリン酸グループを基質トレオニンに転移させる。

AKT経路の活性化は通常、細胞表面の受容体チロシンキナーゼ(RTK)とリガンドとの結合で始まるものである。RTK活性化の後、P13Kは細胞膜に集め、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)がホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)への転換を触媒する。PIP3は、二次メッセンジャーとして機能し、AKTとその上流キナーゼPDK1を細胞膜に集める。その後、PDK1とmTORC2はそれぞれ、AKTのThr308とSer473の場所をリン酸化し、AKTキナーゼ活性を活性化する。更に、IGF1がIGF1Rに結合する時、IRS-1 とPI3Kが集められ活性化される。活性化されたPI3Kは、PIP2をPIP3に転換させ、PDK1を活性化し、その後Aktに影響を与える。

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フィギュア1:AKT1/PKB αの構造ドメイン、中にはPHドメイン、キナーゼドメインと疎水性モチーフも含む

 

AKTシグナルネットワークは重要な細胞基質を標的にし、制御する

正常な細胞における標的タンパク質に対するAKTの制御:普通の条件下で、PAM経路は、生存、増殖、成長と代謝などの基本的な細胞機能を適宜に促進させる。AKTに介された下流標的のリン酸化(BAD, IKK α, FOXO, MDM2, CHK1, p21, p27, GSK-3, TSC2を含めて)が様々な細胞機能の制御を決定する。

癌細胞における標的タンパク質に対するAKTの制御:RTK, Ras, PI3K, PTENタンパク質ホスファターゼ、AKT、そして/または癌細胞に起きるかもしれないその他の癌遺伝子の変異は、AKTの過発見に導き、BAD, FOXO, CHK1, p21, p27, GSK3, TSC2の阻害を増強させ、IKK αとMDM2の活性を増加させた結果、生存率がより高くなり、増殖が増加し、成長が増強され、代謝も促進された。

AKT経路の主な下流エフェクター

AKTは、下流エフェクターを順番依存的にリン酸化する。一般的なリン酸化モチーフR-X-R-X-X-S/Tの含んだ基質を認識する。Aktシグナルの下流効果は広く、腫瘍細胞の下流エフェクターを活性化することで、腫瘍細胞の生存、増殖、成長と代謝を促進する。

1mTOR

MTORはPI3K関連のキナーゼファミリーの非典型的なメンバーであり、通常はmTORC1とmTORC2の複合体に組み立てられ、数多くの生物プロセスで重要な役割を果たしている。mTORC1複合体はmTOR、mLST8、ラプターとPRAS40で構成され、S6K1と4EBP1をリン酸化することで細胞の成長をコントロールする;MTORC2はmTOR、mLST8、SIN1とrictorで構成される。

多くの成長因子とその受容体(例えばVEGFとVEGFRなど)は、陽性制御因子として作用し、PI3K/Akt経路を通じてシグナルをmTORに伝達する。このステップはmTOR陰性制御因子のPTENに制限されている。AktはTSC2のリン酸化を通じてmTORを活性化する。

2GSK3

   EGFR/RAS/PI3K/PTEN/Akt/GSK3/mTORC1経路は癌の中では普遍であり、GSK3はその標的の一つである。AktがPI3Kの介したシグナルに応じて、Ser21 (α)またはSer9 (β)を誘発し、GSK3 (GSH3 αとGSK3 β)は非活性し、プロテアソーム分解を狙う。

3FOXOs

   FOXOには、四つのAktの直接な下流標的(FOXO1, FOXO3, FOXO4, FOXO6)が含まれている。これらはAktに活性化された後にリン酸化され、細胞周期制御と細胞の生存に関与する。

4TSC2

  TSC1とTSC2の含んだ複合体はmTORC1活性を阻害する。TSC2はRas関連のRheb GTP(mTORC1の効果的な活性化因子)をRheb GDPに移転し、よってmTORC1を非活性化する。しかし、Aktを介したTSC2のリン酸化でこのプロセスを逆転させ、TSC1 とTSC2が小さなGタンパク質RHEBを陰性制御することを阻止し、よってmTORC1を間接的に活性化し、細胞の成長を促進する。

5MDM2

MDM2は腫瘍の形成を誘発する癌遺伝子であり、そのmRNAレベルはp53にコントロールされ、酸性ストレスとDNA損傷に応じる。リン酸化が、MDM2が細胞質から核への転換にはとても重要なため、活性化されたPI3K/AktはMDM2の核転座を誘発することができる。核に入る際、MDM2は腫瘍抑制因子p53と結合し、その転写を阻害し、その分解を誘発し、よってp53が起こした細胞周期停止とアポトーシスを抑制する。PI3K/Akt経路におけるPTENの阻害は、p53をMDM2誘発性分解から守る。

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フィギュア2:AKT経路活性の概略図

 

AKT経路:乳癌の重要な標的

癌は、人間の健康を脅威する主な疾患として、長きに渡り、重要なトピックであり、その治療のための医学研究にとっての大きな挑戦である。分子医学と医療化学の発展に伴い、癌細胞内の重要なシグナル経路を狙う療法はだんだん、研究のホットスポットになりつつある。癌では、AKT経路はよく非正常的に活性化される。これは、上流成長因子受容体とRasタンパク質における変異と、阻害剤PTENの非活性化、AKT自己増幅またはドメイン変異が原因なのかもしれない。活性化されたAKTは様々な下流エフェクター(BADなどの阻害アポトーシスを含んで)を制御し、タンパク質合成を促進し(mTORC1を通じてS6Kを活性化する)、細胞周期阻害剤(例えばp21とp27など)を妨害し、腫瘍抑制遺伝子(例えばFOXOなど)を阻害する。よって癌細胞をアポトーシスから逃し、迅速に増殖し、乳癌における代謝利点を得るようにさせる。更に、AKT経路は、mTOR、NF-κB、GSK-3βなど、他の重要なシグナル経路と共に複雑なクロス制御ネットワークを持っていて、癌細胞におけるその多様な役割を増強させる。

AKT阻害剤:新たな抗腫瘍薬剤

AKTシグナル経路の重要性ゆえに、抗主要薬の開発における大事なトピックになってきている。現時点では、薬剤開発戦略は主に、ATP競合的阻害剤と構造変容の阻害剤という二つの方向に集中している。

1、ATP競合的阻害剤

ATP競合的阻害剤は、AKTキナーゼのATP連結点に競合的に連結し、活性化されたAKTキナーゼのAKT連結点により高い連結親和性を示し、その触媒活性を阻害し、よって下流シグナルを遮断し、癌細胞の増殖と生存を抑制する。

◉ GDC-0068:GDC-0068はAKT1、AKT2とAKT3を標的とする高い選択性の経口AKT阻害剤である。IPAUnity130の臨床実験では、GDC-0068とパクリタキセルが混合する場合と、パクリタキセルだけの場合のどちらも、PIK3CAまたはAKT1またはPTEN変異(PFSの中央値はそれぞれ7.4と6.1か月)の乳癌患者のPFSにはこれと言った差は見られず、研究の一次終了点には辿りつかなかった。しかし、乳癌が進行していて、過去にはCDK4/6の治療に効果が出なかった患者に対して、GDC-0068が混ざった療法は一部の患者により良い臨床効果を出す。

◉ GSK2110183:GSK2110183は範囲の広いAKT阻害剤でもあり、今はHR+/HER2乳癌、トリプルネガティブ乳癌、転移性去勢抵抗性前立腺癌、その他の適応症に関する臨床研究に使われている。研究の結果、GSK2110183は腫瘍細胞の増殖を著しく阻害し、細胞のアポトーシスを誘発し、化学療法の薬物と混用する場合は特に相乗効果を示す。

◉ GSK2141795:GSK2141795は小分子経口AKT阻害剤として、試験管内実験と生体内実験の両方に抗腫瘍と抗増殖効果を持つ。GSK2141795はAKTキナーゼに連結し、基質リン酸化活性を阻害することで、PI3K/AKT経路の下流シグナル伝達阻害に導き、腫瘍細胞の死亡を誘発するかもしれない。臨床実験では、GSK2141795は様々な進行中の固形腫瘍に抗腫瘍活性を示し、その副作用は許容範囲内にある。

2、構造変容のAKT阻害剤

ATP連結点の外で連結し相互作用する阻害剤。構造変容の阻害剤と連結した後発生した配座転移の喪失は、Thr308のリン酸化の喪失を促進し、疎水性モチーフの非正確的な局在化に導き、その結果、Ser473合成樹脂の脱リン酸化を起こす。第二に、阻害剤の連結は、リン酸化されたSer473の上流立体障害による活性化を遮断でき、よってAKT活性を徹底的に阻害する。

◉ KRX-0401:KRX-0401は主に細胞膜で作用し、細胞膜でAKTキナーゼのシグナル伝達を遮断し、その能力を阻害する。更に、KRX-0401は、細胞の成長、分化、生存とアポトーシスに関連するMAPK、JNK、NF kBなどのタンパク質をも阻害する。一部の臨床研究の結果によると、乳癌治療における安全性についてはまだ確認する必要があるが、その作用の独特なメカニズムは、これからの発展に貴重な経験を提供してくれているという。

◉ MK-2206:MK-2206は経口の非ステロイド性のAKT阻害剤であり、AKT1/AKT2とAKT3を標的にし、その下流シグナル経路を阻害する。臨床実験では、MK-2206は、他の標的薬物または化学療法の薬物と混用される時、標的薬物の感受性を改善し、乳癌における異種移植の成長を阻害できる。PTEN/PIK3CA変異を伴う一部の細胞株は強い薬物抵抗性を持っている。

3、天然物に基づくAKT阻害剤

◉ 合成小分子薬物の他、一部の天然物にもAKTに対する阻害効果のあることが認められた。例えば、天然物のソレノプシンとその誘導体はAKTキナーゼ活性を阻害することが認められている。ソレノプシンはヒアリから得られたアルカロイドであり、AKTに連結することでその活性を阻害する。近年では、ソレノプシンと薬理学的計算によってスクリーニングされた誘導体に基づいた薬物の設計は、AKT阻害剤の開発に新しいアイデアを提供している。



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