「万能溶媒」DMSOに関する誤解、引っかかったことはありませんか?
前号では、薬物の溶解に関する処方や戦略を紹介しました。その中で、溶媒としてあんまり推奨されていないDMSOは共溶媒として知られていますが、かなり議論されています。DMSOは広く普及しており、強い毒性を持つことで、その使用がFDAによって制限されています。では、その毒性はどの程度なのか、実験ではどのように使用すればよいのか。今日は、細胞実験や動物実験における「万能溶媒」DMSOの正しい使い方を紹介します。
DMSOの概要
下図の構造を見ると、含硫有機化合物の性質が明らかになるでしょう。これはジメチルスルホキシド(DMSO)の化学的構造です。
物理的性質:DMSOは常温では無色無臭の透明液体です。また、DMSOは吸湿性が強く、凝固点が18.55℃で、密度(1.100g/mL)は水とほぼ同じです。
化学的性質:分子式は(CH3)2SOです。親水性のスルフィニル基と疎水性のメチル基を2つ持つため、水溶液と石油エーテルを除くほとんどの有機溶媒に適しています。DMSOは約80%の化合物を溶解できます。水溶性化合物や脂溶性化合物のほとんどを溶解できる強い性能を持つため、「万能溶媒」とも呼ばれています。
DMSOの歴史
DMSOは「魔法の薬」と呼ばれる程の性能を持つため、発見された当初様々な分野で使われました。研究界では、DMSOの抗炎症作用や鎮痛作用、利尿作用、鎮静作用などに関する、多くの研究を行われました。製薬業界では、DMSOはいくつかの薬として生産され、直接に使われます。また、DMSOは良好な浸透圧保護剤、血小板凍結保存剤などとして使用されています。
1965年DMSOに関する研究シンポジウムが開かれ、FDAといくつかの製薬会社が参加したこの会議ではDMSOが多くの哺乳類の水晶体構造に影響を与えたことが判明しました。ヒトや霊長類には影響がないことが指摘されたものの、アメリカでのDMSOの研究は突然な取り締まりによって中止されました。
DMSOの近数十年の開発は下図に示される通りです:1965年以来、科学者たちはDMSOの毒性について広く研究を行ったが、健康な実験動物やヒトに深刻な毒性や副作用は発見していませんでした。DMSOは細胞に毒性があるため、特定な試験や代替不可能な状況を除き、その使用はFDAによって制限されています。
DMSOの近数十年の開発史
DMSOの毒性について
1. DMSOの細胞毒性(0.1%(v/v)未満に制御する)
Qi Weidong(2008)らは、DMSOが含まれる培養液にラット有毛細胞を培養しました。培養液中のDMSOの濃度が0.1%~0.25% (v/v)の場合、24時間以内にラット有毛細胞への損傷や影響は見られなかったが、DMSOの濃度が0.5%~6%になると、有毛細胞の損傷や用量依存的な細胞死が起こることを発見しました[2]。
He Bingら(2014)は、DMSOの濃度が2.0%(v/v)になると、in vitroでのウサギ軟骨細胞の増殖に影響があることを発見しました。2.0%(v/v)のDMSOにおいて軟骨細胞の増殖はより強くなったが、1%~1.0%の濃度ではほとんど影響を与えず、増殖に対し抑制効果を示しました[4]。
2. DMSOの酵素毒性(0.1%(v/v)未満に制御する)
Ramakrishna Nirogiら(2011)によりますと、ヒト肝ミクロソームをインキュベーションさせた実験において、DMSO濃度が0.1%を超えると、ヒト肝ミクロソーム中のCYP1A2の酵素活性が阻害されることが報告されました。一方、2%のメタノールやアセトニトリルの投与が、酵素活性に影響を与えませんでした[5]。
Masuhiro NISHIMURAら(2003)によりますと、DMSOの最終濃度が0. 1%以下では、肝細胞の薬物相代謝酵素チトクロームP450酵素アイソフォーム(CYP)、二相性薬物代謝酵素グルクロニルトランスフェラーゼアイソフォーム(UGT)、および細胞内の主要な膜貫通型トランスポーターABCトランスポーター(ATPBing Cassttee Transporters)の発現に影響がありませんでした。しかし、濃度が高くなる場合、それらの発見に変化が生じることが観察されました[6]。
3. 動物毒性
(1)急性毒性:急性毒性とは一度に大量の薬物を投与された後、体内で生じる急速で激しい中毒反応を指し、死亡に至る場合も含まれます。薬物の毒性を評価するには、一般的に半数致死量(LD50)が必要です。DMSO(g/kg)を投与した様々な動物実験で以下のような結果が得られました:
次の表には、各投与方法ごとにDMSOの半数致死量(LD50)が示されています。この表から、DMSOの半数致死量はかなり高いことがわかります。例えば、マウスに経口投与する場合、LD50は16.5~24.6g/kgであるのに対し、我々のマウス実験での投与量はこの量を超えることはほぼ不可能です。よって、DMSOが動物実験における総合的な毒性は細胞実験ほど強くないことが明らかになりました。他の研究室から提供されたデータとまったく一致しているとは限らないが、いずれもDMSOの動物における毒性が低いことを証明できます。
(2)長期毒性:長期毒性とは、薬物を一定の用量で数日間連続投与した場合、体内に生じる有害作用を指します。DMSO(g/kg)を投与した様々な動物実験で以下のような結果が得られました:ア イヌ、ブタ、ウサギなどの実験動物にDMSOを5g/kg.dの用量で投与しました。数ヵ月後には、実験動物の水晶体視度に変化が生じ、また用量依存的な変化が示されました。DMSOを減量することで、水晶体視度の変化は判断しにくくなり、影響が非常に小さいことが示されました。霊長類において、今の段階ではこのような副作用はまだ確認されていませんでした[7];
イ アカゲザルにDMSOを9g/kg-dの用量で、18ヶ月間連続投与しました。明らかな異常や不耐性は観察されませんでした[8];
ウ 雌・雄ラットにDMSOを、1g/kgの用量で、週5日の頻度で、12ヶ月間投与しました。ラットの脳、心臓、腸、生殖器、甲状腺などすべての組織や器官は正常で、明らかな異常や不耐性は観察されませんでした[9]。
エ DMSOには利尿作用があります。ヒトおよび実験動物における腎障害がなかったことが認められています。
以上のデータからみると、他の安全で無毒な溶媒と比較すると、DMSOは一定の毒性があるが、独自の特性もあります。DMSOの合理的な使用は生物実験や薬物スクリーニングの予備段階で、試薬因子の干渉を受けずに正しい実験結果を迅速に得ることができます。それでは、実験におけるDMSOの正しい使い方を見てみましょう。
細胞実験でDMSOを正しく使うには?
細胞実験におけるDMSOの2つ主な用途
1.細胞の凍結保存:DMSOは現在最も優れた細胞凍結保存剤であるが、一定の毒性があります。DMSO濃度は一般的に最終容積の10%以下にコントロールする必要があります。耐性の弱い細胞ではさらに低く、8%ないし10%以下に下げます。細胞回収する際にできるだけ早くDMSOを洗い流す必要があります。そうしないと重篤な細胞毒性を引き起こす可能性があります。その細胞増殖阻害効果として、濃度が10%の場合、細胞増殖阻害率はほぼ100%に達し、1%の場合、阻害率は35%に達しました。0.04%の低濃度でも、DMSOは細胞増殖に抑制効果を示しました[10]。
2.細胞投与に使われる溶媒:溶解性化合物を細胞に投与する際に、DMSOの投与量を厳密にコントロールする必要があります:現在では細胞投与用の化合物を調合するためにDMSOを使用することは容認されています。DMSO濃度に対する感受性は細胞の種類によって異なるかもしれないが、一般的に、DMSOの最終濃度は0.1%以内に制御され、細胞実験に支障がないと考えられます。すなわち、DMSOの量は培地1ml中に1μlを超えてはならないとのことです。もしこの比率を超えた場合は、薬剤の濃度を調整するか、水相段階希釈法を用いて、DMSOの濃度を下げます。
動物実験での使い方
動物実験において、DMSOは主に薬物の溶解に使われます(前号で薬物の溶解について紹介しました。もし興味がありましたらご覧ください)。薬物を溶解する場合、まず共溶媒の毒性を考え、次に溶解度を考えます。毒性比を超えた場合、他の溶解法探して研究を進んでください。
上記のデータによると、動物に対するDMSOの総合的な毒性は細胞に対する毒性よりはるかに低いことがわかりました。Li Pingらの研究については、動物への投与に使用するDMSOの量は、総投与量の10~20%を占めることができると考えています[11]。例えば、経口投与時のマウスの投与量は10mL/kgであり、20gのマウスの場合、我々の1回の投与量は約100~200μlであり、DMSOの量は10~20%つまり20~40μlにコントロールする必要があります。
注意:DMSOの使用量はあくまで参考です。動物に体重減少や食欲不振などの有害症状が見られる場合は、DMSOの使用量を減らすことを検討すべきです。原則としてDMSOの使用を最小限にすることが勧められています。
DMSO使用上の注意事項
1.皮膚との接触を避ける:DMSOは分子量が小さく、皮膚に吸収されやすいため、DMSOに長時間さらされると、局所に皮膚刺激、かゆみ、ほてりなどの小さな炎症が起こります。実験中では、あらかじめ1%~5%のアンモニア水を調製して置くことを推奨されます。DMSOに触れた後は、大量の水と希釈アンモニア水で速やかに洗ってください。スルホンは皮膚に浸透すると、特定の条件下では皮膚に有害物質をもたらすかもしれません;
2.DMSOの吸入を避ける:DMSOを吸入した場合、吐き気、嘔吐が引き起こされ、呼気中にニンニク、タマネギ、カキのような臭いが引き起こされます。高濃度、大面積で使用される場合、DMSOは揮発するかもしれません。大量に吸入すると、神経機能に影響を与え、溶血を引き起こす可能性があるので、使用時には揮発を避けてください。
今回紹介したDMSOの基礎知識と実験向けの応用法は以上です。DMSOに対する理解は深まったでしょうか。DMSOには一定の毒性があります。適当な代替物質が見つからない場合、DMSOの応用は認められています。もし何かご質問があれば、メッセージを送っていただくか、下記のグループチャットに参加して一緒に議論してください!
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