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有名分子p53の制御と機能

P53は最も重要な腫瘍抑制遺伝子であり、広く強力な機能を持っている。p53タンパク質が1979年に発見されて以来、p53は常に分子生物学と腫瘍学における「スター分子」である。PubMedデータベースでp53をキーワード検索すれば、100000以上の記事が出てくるであろう。

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1.p53の制御:タンパク質の後翻訳修飾が肝心

その多面的な機能を正確に発揮する為に、p53の発見と活性はタンパク質、DNAとRNAレベルで正確でマルチレベルの制御が必要である。

2.タンパク質レベルにおける制御

p53タンパク質は、ユビキチン化、リン酸化、アセチル化とSUMO化など様々なPTMを受けることができる。異なる刺激シグナルがPTMの部位と種類を決める。

数多くのp53のPTMは可逆的である。p53におけるPTMの効果は、そのタンパク質のレベルの変化、細胞の局在化、共同因子の募集、標的遺伝子の選択性、更にはタンパク質の凝集などが含んでいる。その中で、ユビキチン化、リン酸化とアセチル化はp53機能を影響するのに最も普遍的で影響力が高いものである。

1) ユビキチン化

ユビキチン化は普通、p53のC-リジン残基で起きる。MDM2は最も有名なp53制御因子であり、p53のユビキチン化と降格を引き起こし、よって未刺激の細胞で低いp53のレベルを保持し、または核p53を細胞質へ輸出する。多くの刺激物と制御因子は、MDM2の阻害を減らすことで、p53を活性化する。例えば、p14ARFタンパク質は、p53のMDM2媒介の降格を阻害することで、p53を安定化させることができる。MDM2媒介のp53の阻害の重要性を支える信憑性の高い証拠はマウスモデルから来ている。マウスモデルでは、MDM2の欠損による胚致死は、p53 をノックアウトすることで回復できる。

 面白いことに、MDM2自体がp53の標的遺伝子である。MDM2-p53で形成されたフィードバックのループは、p53関連の経路の核心である。MDMX (あるいはMDM4)はMDM2ファミリーのメンバーであり、E3ユビキチンリガード活性を欠けていても、MDM2とともにヘテロ二量体を形成し、p53の降格を増強させる。その他p53を降格できるE3ユビキチンリガードは、ARF-BP1/HUWE1、COP1、CHIPとPirh2などがある。

2) リン酸化

セリンとスレオニンのリン酸化部位はp53タンパク質全体に分布している。ATMによるp53のリン酸化は、DNA損傷に対するp53の反応を説明する最初のメカニズムであった。S15、T18とS20のリン酸化は、MDM2のp53への結合と阻害を攪乱し、それと同時にp53とCBPなどの転写因子との相互作用を増強させる。その結果、p53媒介転写が活性化され、細胞周期中止とアポトーシスを誘発した。深刻なDNA損傷はS46でp53を更にリン酸化し。よって細胞のアポトーシスを増強させる。

3) アセチル化

p53アセチル化の発見は、非ヒストンアセチル化の最初の例である。DBDにおける幾つかのリジン残基のアセチル化は、p53活性化の能力にはとても重要で、細胞周期の停止、アポトーシス、老化、鉄の死とmTOR経路をプロモーター特異的な方法で影響することができる。腫瘍の抑制におけるp53のアセチル化の役割は、マウスモデルにおける一連のアセチル化欠乏(KR変異)遺伝子ノックを通じて一番良く示される。例えば、p53-3KR変異体はそのDNA結合活性を保持するが、p21などの主な標的遺伝子を活性化することはできない。しかし、p53-3KR変異マウスは腫瘍に対しては感受性はそこまで強くはない。p53-4KRとp53-5KRの変異体は、p53のフェロトーシスとmTOR経路を制御する能力を更に消滅し、その結果、p53の腫瘍抑制機能の根本的な喪失を起こした。

注目すべき点は、CTDのアセチル化は複雑であること:CTDと同一のライシン残基はメチル化、ユビキチン化、SUMO化、NEDD化の修飾を経験することができる。よって、CTDアセチル化欠乏変異体(p53-6KRとp53-7KR)マウスは腫瘍の抑制においては著しい効果を示さず、これらの変異体はp53機能における様々な種類のPTMの陽性と陰性の効果を同時に消滅したからである。事実上、変異マウス模倣アセチル化(p53 KQ)は転写と腫瘍の抑制(p53タンパク質のレベルが著しく増えたわけではないとしても)においては著しいp53活性化を示し、生体内の状態ではCTDアセチル化の役割を強調した。

総じて言えば、様々なタンパク質修飾は共にp53の活性を制御する。注目すべき点は、試験管内研究では、多くのPTMがp53の機能において重要な効果があることが示されているが、これらの効果は生体内でも同じく再現されるとは限らないのである。p53の機能に対する特定のタンパク質の修飾の効果を理解するのに最適な方法は、ノックインマウスモデルを使うことである。

タンパク質レベルでは、共同因子はp53活性を影響するもう一つの重要な因子である。p53タンパク質は、活性剤と阻害剤を含む様々な共同因子と結合でき、そのタンパク質の折り畳み、安定性、細胞局在化、DNA結合、転写活性能力と標的遺伝子の選択に対して、重要な効果を持つ。例えば、多くの分子シャペロンはp53の折り畳みと安定性を制御できる。MDM2とMDMXはp53のTADに結合して、その転写活性化活動(E3ユビキチンりガーゼとして、MDM2の役割とは無関係である)を阻害する。複数の転写制御因子(例えばPBRM1、SETとDicerなど)はp53と相互作用できる。m6Aメチルトランスフェラーゼ複合体の成分であるMETTL3とRBM15は、p53と相互作用し、一部のp53標的遺伝子のmRNAを選択的に修飾する。

3. DNAとRNAレベルにおける制御

p53遺伝子には二つのプロモーターがあり、選択的な転写の開始に導く。p53遺伝子のプロモーター領域はDNAメチル化とヒストンメチル化を経験することができ、よってp53遺伝子自身の転写に影響を与える。複数の転写因子はp53遺伝子の転写をコントロールできる。p53のプレmRNAは、選択的スプライシングを経験することができる。更に、p53 mRNAの安定性、細胞局在化と翻訳は厳しく制御されている。更に、p53の活性化は、シンプルな「イエスかノーか」のパターンではなく、とても動的なプロセスである。上記の細胞の異類混交、刺激物の特徴、制御分子の多様性と下流標的遺伝子の安定性はp53活性における動的な変化を合わせて測定する。

4.p53の機能:多様性と複雑性

p53は多様な機能を制御でき、複雑なp53機能ネットワークを共に形成する。

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生理学的および病理学的プロセスにおけるp53の機能とその役割

 

5.細胞周期停止、アポトーシス、老化とゲノムの安定性

p53の最初に発見された機能は細胞周期停止、アポトーシスと老化の誘発である。様々な刺激シグナルはp53をこれらの機能の発揮を誘発でき、その中でDNAの損傷が最も効果的な刺激の種類である。DNA損傷の後、p53タンパク質は安定化、活性化され、細胞周期発展を阻止し、時間窓と十分な材料、エネルギーを細胞に提供し、よって損傷されたDNAを回復する。損傷が修復できないほど深刻な場合、p53は細胞アポトーシスと老化を惹起し、損傷された細胞を消滅する。特筆すべき点は、p53活性化の結果は、細胞の種類とDNAの損傷にも頼っているのである。これら三つの機能は、腫瘍の進行を阻止するため、p53の主なバリアとして広く見られている。更に、p53は、CRISPR-Cas9ゲノム編集中に生成される DNA 損傷によっても活性化されることができ、よって遺伝子編集の効率を減らす。一方で、損傷された細胞を消滅できなかったことは、ゲノムの不安定性に導く可能性もある。異型接合性の喪失(LOH)を含むp53の喪失と対立遺伝子の非活性化または削除は、ゲノムの不安定性を促進し、腫瘍細胞ゲノムを進化を促進させることができる。p53は「ゲノムの保護者」として知られている。p53はDNA損傷回復を直接的に促進できる。実際、数多くのp53標的遺伝子がDNA回復のプロセスに貢献している。しかし、これらのp53に媒介されたDNA修復関連の標的遺伝子の活性化が他のp53機能から独立する腫瘍の進行を阻害できるかどうかはまだはっきりとしてはいないのである。

6.代謝と鉄の死亡

P53はグルコース、脂質、アミノ酸、ヌクレオチド、鉄とレドックス代謝を制御する重要な制御因子である。更に、オートファジーを制御し、AMPK、AKTとmTORなどの肝心な代謝制御因子とはよく相互作用している。p53の機能は、癌など様々な代謝性疾患と関連している。総じて言えば、p53は合成の代謝プロセス(例えば新規脂質生成やヌクレオチド合成など)を阻害すると同時に、異化(例えば酸化リン酸化、脂肪分解、脂肪酸酸化)を促進する。増強された糖質分解は、癌細胞生物合成(ヴァールブルク効果)のため様々な分子材料を生産し、これもp53に阻害される。これらp53の代謝機能は、癌細胞の快速な増殖のニーズを阻害し、腫瘍抑制に導く。しかし、p53は数多くの代謝プロセスで双方向的な効果を示す。この相矛盾した活動の本質は、p53 機能の複雑さにある。ROS制御におけるp53の役割は良き例を示した。ROS強度が低い(軽度で、一時的で、耐性のある、修正可能な刺激を表す)場合、p53は抗酸化効果を発揮し、ROSを減らし、細胞を損傷から保護する(生存率を増やす)。それと対照的に、ROSレベルが高すぎると、制御不能な損傷(深刻で、長期的で、有害で、反逆不能な刺激)を起こすかもしれない。p53はROSレベルを更に増やし、細胞の死亡に誘発し、周りの未損傷の細胞を保護する(死亡を促進する)。

鉄依存性の制御細胞死は、脂質過酸化レベルが高すぎる場合に発生し、代謝経路と緊密に関連している。P53はフェロトーシスは主な制御因子の一つである。SLC7A11、VKORC1L1、GLS2とPLTPを含むp53の幾つの代謝標的遺伝子は、フェロトーシスに直接関与している。DNA損傷反応の間のアポトーシスと似ていて、フェロトーシスは代謝ストレスの間、深刻に損傷した細胞を消滅できる。P53媒介フェロトーシスは腫瘍の抑制における重要な武器として見られている。面白いことに、アフリカ集団特定p53 SNPはp53のフェロトーシスを誘発する能力を弱化させ、よってその腫瘍抑制の機能を修復する可能性がある。アポトーシスと違い、古典的なフェロトーシスの発生は普通、フェロトーシス誘発物(例えばGPX4阻害剤)での細胞の処理が必要である。特筆すべき点は、最近の研究の結果によると、普通鉄死亡誘発物のない場合、PHLDA2媒介のホスファチジン酸過酸化は非古典的な鉄死亡反応を惹起する。面白い疑問は、p53 は古典的と非古典的な鉄死亡のプロセスの両方を同時に促進できるため、どの鉄死亡経路がp53媒介の腫瘍抑制においてより重要な役割を果たしているのかということである。

7.細胞と競争する幹細胞

幹細胞は癌細胞と多くの類似点があり、持続的な増殖能力、代謝再プログラム化と肝心な転写因子ネットワークを含む。よって、p53は様々な種類の幹細胞で、細胞の幹細胞性と細胞の運命を制御する。胚幹細胞(ESCs)では、p53は、分化を促進する遺伝子を活性化する同時に、幹細胞性を維持する遺伝子を阻害する。成体した幹細胞(ASCs)では、p53は細胞の自己複製を阻害し、幹細胞の枯渇を促進し、幹細胞の恒常性を維持し、分化を刺激する。

p53の細胞の幹細胞性を抑制する能力は、癌幹細胞の形成を妨げるため、その腫瘍抑制機能に重要である。p53に制御された特異の分化経路は、肺癌における腫瘍の抑制に貢献する。p53の喪失または変異は脱分化、細胞の再プログラム化に導き、癌における細胞可塑性を増やした。誘発性多能性幹細胞(iPSCs)の合成プロセスは、脱分化と細胞内発癌と同じである。P53は、このプロセスにおける主な阻害因子の一つであり、p53をサイレンシングすることで、iPSCの生産の効率が著しく促進される。細胞競争は正常な進行、組織損傷の修復、腫瘍の進化と転移の家庭では極めて重要である。

まとめて言えば、p53による合成代謝と増殖の阻害により、細胞の死亡を促進すると同時に、競争においては細胞が近隣の細胞より優れることにはならないのである。よって、高レベルのp53活性はよく細胞の競争では、「敗者」の状態として見られている。しかし、研究の結果を見れば、ミバエにおける超競争的な細胞が近隣の正常な細胞を滅亡するには、p53活性を必要とすることが分かった。p53による細胞競争の制御は、重要な生理学的な意義を持っている。変異p53を持つ細胞は、クローン拡張を経験し、腫瘍の発作と進行を誘発する可能性がある。これらのp53変異細胞は、いつも保存されているわけではないのである。近隣の正常細胞と競争することによって壊死アポトーシスを経験するか、あるいはより高いフィットネスのその他の遺伝子変異の細胞に消滅される可能性がある。

8.腫瘍の転移

p53は、自律的および非自律的に、複数の段階で転移を阻害する。腫瘍細胞では、p53はそれらの移動性と上皮間葉転換(EMT)のプロセスを制限する。循環器系における転移性の癌細胞は、アノイキスとフェロトーシスを経験する可能性がある。アノイキスとフェロトーシスの両方とも、p53に促進され、よって癌細胞を新しい部位に転移することを阻止する。

転移と拡散の各ステップでは、癌細胞は特異的な代謝プログラムを使い、それらのエネルギーと分子のニーズに合う。p53はこれらの細胞代謝プロセスを阻害できる可能性がある。一方、p53は転移に適していない腫瘍微小環境(TME)を作る。例えば、p53は血管新生とリンパ脈管新生を阻害し、血液とリンパシステムを通じて、転移経路をブロックする。また、p53は細胞外マトリックスの強度を維持し、腫瘍細胞との接着を増強させ、腫瘍細胞の移動を制限することもできる。更に、p53は腫瘍転移の炎症反応を活性化し、阻害することもできる。

9.免疫

p53のもう一つの重要な機能は免疫反応を調節することである。p53は複数のメカニズムを通じて、先天性免疫と獲得性免疫では役割を果たしている。腫瘍細胞と非腫瘍細胞におけるp53によって、腫瘍抑制性免疫ネットワークを相乗的に構成する。腫瘍細胞では、p53はmiR-34を上方制御することで、PD-L1の発見を間接的に阻害し、腫瘍細胞を抗腫瘍免疫反応と免疫療法の両方に敏感にさせる。p53はcGAS STING経路を活性化し、抗腫瘍活性を誘発する。マウス肝癌モデルでは、p53発見の回復は腫瘍細胞の老化を誘発し、炎症サイトカインの放出を惹起し、先天性免疫反応をも惹起し、腫瘍細胞を消滅する。

肝星細胞では、p53誘発性細胞老化は、老化随伴分泌現象(SASP)を建てることで肝癌の阻害効果をも示し、M1マクロファージ分極化は増強され、腫瘍抑制性のTMEを維持できる。マウス骨髄前駆細胞のサブタイプでは、p53はそれらの分化をLy6c+CD103+単球抗原表現の細胞に誘発し、よって抗腫瘍免疫性を増強させる。

腫瘍細胞またはTME細胞におけるp53の喪失は、腫瘍抑制性免疫微小環境を免疫抑制の状態に逆転させることができ、腫瘍細胞の免疫耐性あるいは免疫逃避を促進し、または腫瘍転移を助長する炎症環境を建てる。変異p53は腫瘍細胞免疫の回避を刺激できる。面白いことに、p53変異体自体が、腫瘍免疫療法の標的にあたる腫瘍抗体を生成できる。

p53は、自己免疫反応と様々な病原体に対抗する免疫防御にも関与する。特筆すべき点は、免疫に関連する全てのp53の活動が免疫細胞の機能を促進し、健康に有益であるわけではない。p53は特定のT細胞のサブタイプの増殖と機能を阻害することが可能である。例えば、p53は抗原特定のCD4+T細胞増殖を阻害し、これはT細胞受容体(TCR)シグナル経路を通じて消滅される可能性がある。一部のウイルスはp53に頼り、複製のために細胞周期の停止を起こす。

 



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